(2018/7/21)
前日、徳島行き高速バスで脇町まで輪行。
脇町インターで降り、吉野川を臨む高台の宿に投宿。
午後7時半がラストオーダーと聞き、ビール、冷酒と何とか御膳(天ぷら、刺身)で、早々に退散。
部屋で缶ビールを開けながらつけたNHKは、過去の四国勢の甲子園での活躍振りを放送していた。
そういえば、ここは池田高校から少し川を下った所なんだな。
翌朝、朝食を済ませ、玄関先で出発の準備に取りかかっていると、恰幅の良い入道然のご主人が私の姿を見て、「山登りですか」と。
どう見ても自転車乗りの格好をしているんですけど。
近くにあるロードを指さし、「自転車です」と返答。
「この暑いのに、どこまで行くんですか」と続けられるので「牟岐まで行こうと思ってます」とお応えすると、しばらく沈黙が……。
ご主人「この暑い中ですか」
私「山なら少しは涼しいかと」
ご主人「いやいや……」
しばらく私をつらつら眺めたあと、
ご主人「いや、あなたなら行けるかもしれません、くれぐれも熱中症には気をつけてくださいよ」と。
私の姿のどのポイントが彼をしてそう言わしめたかは計りかねるも、ほんの少しだけ勇気が湧いてきた。
いざ出発、午前8時、四国三郎こと吉野川に沿う伊予街道を東進し、阿波山川へ向かう。
暑い、やはり暑い。ここ2週間ほど東西日本はダブルの高気圧のせいで、連日35度近くの猛暑を超えて、酷暑が続いている。
熱中症だけは勘弁して欲しいな。
もしだめなら、峠を越えたところで、徳島方面に降りて、難を逃れようなどと思いつつ、国道193号線への分岐を確認し、南下を始めた。
最初に目指すは倉羅峠(クララ峠)、地図には経ノ坂峠と出ているが、地元のひとからはこう呼ばれている。
193号線に入り、しばらくするとなかなかの登坂が現れる。
ふと道端を見ると、パイプから、とうとうと水が噴き出している。
これ幸いと頭から水をかぶる。
期待したほど冷たくはないが、多少の冷却効果はあるだろう。
この最初の坂が終わったあたりに美郷の川俣集落が現れた。
少し進むと、大小の石で積まれた見事な石畳の光景が続く。
一軒だけ開いていたお店でポカリを補充。
オヤジさんによると、ちょくちょくグループで自転車の人が来よるよ、あんたはひとりかねと。
徳島の自転車乗りのメッカなのかなあ。
見上げるつづら折れに心も折れそう。
これを超えると、彼方に阿讃の山並みと先ほどサヨナラした吉野川が見える。
一歩一歩行くしかないと言い聞かせながら、また日差しが強い時には次の雲で日が隠れるまで待ったりして淡々と進んでいく。
倉羅峠到着。トンネルではなく、切り通しだった。
車の行き来がそこそこあるので、注意しながら降下開始。
延々と続く下り坂に、もおいい加減にしてと思う頃、やっと下山。
国道438号線に合流して、神山の川又集落へ。
趣のある川又の町並み。
時刻は午前11時10分、一つの峠に3時間かあ。
予定よりはかかったなあ、でも何とかまだ持ちそうだと。
ここでも数少ない開いているお店でポカリを。
店のおばさんに「とす峠はきついですか」と訪ねると「どす峠っていうんだけど、きついよ、倉羅峠よりももっと」と。少し萎える。
進み始めると、また道端のパイプから水が噴出していて、一旦通り過ぎてから引き返し、頭からかける。
ここの水は冷たくて気持ちがいい。
登り口にしゃれた喫茶店があったが、こんなところでまったりしてたら、絶対後が続かないとスルー。
暑さと斜度に耐えながら、淡々と登り、岳人の森キャンプ場の喫茶店も横目にしばらく行くと峠到着。
土須峠、雲早トンネル。
事故らないよう注意して降りる。
ここの下りは見所満載だった。
垂直に切り立つ崖の中を道が進む。
名前を失念したが、最初に出てくる滝。
大釜の滝。残念ながら滝壺は木々に遮られ見えず。
素掘りの隧道、怖い。
大轟の滝。
最後は四ツ足峠から下りてくる195号線と合流する。午後2時54分。
こんな山あいでもこの日の暑さは尋常でなく、木沢のヤマザキショップ店内のクーラーで癒されながら桃イッパイゼリーを頬張る。
ここらで平地のスピードが鈍りだし、徐々にサイクリング状態に。
少し弱きの虫が頭をもたげかけるも、牟岐の宿は予約してしまっているし、どのみちもう一つの峠、霧越峠を越えるしか無いと鞭を入れる。
峠に向かう分岐。もう引き返せない。
峠までは20キロ程あるも、10キロくらいからは車の離合困難な1車線に。
山の陰は薄暗く、心細さが募ってくる。
カーブを曲がると突然、道の真ん中にシカが。
こっちもビックリだが、向こうもそのはず。
しばらく見合って後、崖を下りていってくれた。
あと出会った動物はてん、野犬、猛禽類など。
猪や熊でなくてよかった。
海川隧道。霧越え峠。
と思ったら、この後まだ登りが待ち受け、結局どこが峠か判然としないまま。
少し行くと、林道霧越線開通記念碑が立っている。見えるわけではないが、何となく海の気配を感じる。
ひたすらきつく長い下り。ブレーキにかけた指がバカになるので、完全に止まって休憩すること幾度となく。
やっと澄んだ流れの海部川に安堵する。
2車線を気持ちよく飛ばし、このまま海洋町に下りていきたい衝動にかられたが、今日の宿泊先は牟岐にあるので、途中で左折、193号線にお別れし、海部川を渡り、最後のやれやれ峠に向かう。
このあたりで、力尽き峠の写真もない。
やれやれ峠、これまでの3つの峠に比べ、取るに足らないと思っていたら、大間違い。
ピークは低いものの、徐々に傾斜がきつくなり、ついに峠前で不覚にも押し歩きしてしまった。
誰が名付けたかやれやれ峠、走ってみてなるほどと唸らせられる。
宿到着前に電話が。
「4時に到着される予定になってましたが」と。
もう午後7時になろうとしていた。
牟岐駅から東に延びる県道147号線を辿り、保育園を過ぎ、スマホの命じるまま海へと向かう。
お詫びしながら到着。
部屋から眺める太平洋に感無量も早々に、
急いで風呂、洗濯物をほおり込み、さほど期待もせず向かった夕食がびっくり。
アワビ、サザエ、海部川の鮎などなど。今日はないけど季節により伊勢エビも出しますよと。
素材もすごいが、優しい味付けがされていて、生中2本あっという間で、またしめの地元の米を炊いたご飯とみそ汁も最高。
翌朝、再訪を約束し、宿を後にした。
「山は青く、海も蒼く、空は碧い。それが青い国四国である」
大学進学のため、始めて降り立った四国の地、高松港だったか高松駅に『青い国四国』の文字が入ったポスターが貼られていた。
人混みに押されながら、目に入ったこの五つの文字がその時の私の心の急所にストンと収まった。
以来45年ほど経たが、今回の自転車行は探し続けてきた『青い国四国』にやっと巡り合えたと思える、そんな旅でもあった。
この日の行程