じいちゃんトライアスリートの旅

還暦過ぎのトライアスリートです

ヒグラシに間に合った

人には、どうでも良いことでも、当人にとってはとても大事なことがら、というものがある。

 

私の場合、万が一、そのひと夏の間に、『ヒグラシ』の声を聞き損なったりしようものなら、穏やかな気持ちで秋を迎えることができない。

 

理由は、ただ何となくである。

 

だから逆に『好む』ということのランク付けなら、より高尚であると言えなくもない。

 

ヒグラシがバックグランドのシチュエーションならば、500の缶ビールをツマミ無しで、2本はいける自信がある(何を自慢しているのやら)。

 

以前、川釣りにはまっていたことがあり、それなりの場所では、梅雨の時期には啼き始めることを、身をもって知っている。

 

8月上旬には、とうに盛は過ぎてしまっているだろう。

 

今般の事情もあり、ヒグラシが生息する地域への移動もはばかられ、ついここまで来てしまっていた。

 

うずうずしていた。

 

そんなタイミングに、相方から明日の日曜日、用があってお出かけするとのお達し。

 

その瞬間、私の疎な脳内で次のような計画が、超短絡的に決定された。

 

自転車➡長距離➡ヒグラシ➡瓶が森林道。

 

コースは毎度のごとく、行きの松山、西条間はJRで、帰りの東温、松山間は伊予鉄輪行

間のメインディッシュだけいただく算段。

 

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ガーミンの走行記録より

前日の準備は大忙しで、天気予報のチェックから始まり、チェーンのお手入れ、アブ対策の虫よけスプレー、エネルギー作成(粉飴300gにパラチノース50g)等々。

 

晩酌も控えめに終え、早めに就寝。

 

朝5時起きで、6時13分発の特急しおかぜに乗り込む。

 

約1時間で西条駅に到着、バイクを組み立て、7時37分いざ出発。

 

キャンパーで賑わう加茂川を横目に、一路、寒風山峠を目指す。

 

暑く、止まると汗がすごい。

 

塩分、エネルギー補給を怠らないよう、ガーミンを20分毎にアラームで知らせるよう設定。

 

こまめにボトルのエネルギーを摂取しながら進む。

 

淡々と進み、旧寒風山トンネルへの分岐手前の水場で一息つく。

 

木陰が多く、好きなつづら折れのコースが始まる。

 

途中の竿谷川に架かる橋で一休み。念のため、おにぎりを一個頬張る。

 

すでに標高は600mを超え、暑さはさほどでもない。

 

ふと気づくと、鳥の声に交じり、聞こえ始める。

 

ヒグラシの啼き声があちらこちらから。

 

これを待っていたんだ。

 

思い通りの展開にもう何も言うことがない。

 

耳はヒグラシ、ただ脚は淡々と回すのみ。

 

旧寒風山トンネルにたどり着き、高知県側の駐車場でボトルの水分補給。

 

ここから瓶が森林道が始まるが、20数キロの間に自販機は一切ない。

 

林道に入るとすぐ、難関の急斜面が待ち受ける。

 

ガーミンの斜度計が連続して、9-10%を指し示す。

 

せっかくヒグラシが啼いてくれても、しんどさが強く、感じ入ってる場合どころじゃなくなってくる。

 

何とか伊予富士の登山口をクリアーし、素掘りのトンネルをいくつか通り過ぎると、眼前にパノラマが拡がる。

 

UFOラインの名称にふさわしい天空の道。

 

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今日は拝ませてもらえた。通算5打数4安打だ。

 

この後もしっかり上りが待ち受けていて、最高地点は1600mを超えたようだ。

 

最後の急坂を超えたら、石鎚山の登山口、土小屋に到着。

 

改装しており、一階はしゃれたモンベルのお店になっていて慌てたが、

 

二階は従来通りの食堂で、いつもの具沢山カレーを食べることができ、一安心。

 

再出発しようとした頃から、雨がポツポツと降り出し、あっという間に土砂降に。

 

しかし雨宿りする気にもなれず、一気に山下り。

 

寒くて唇が震える。

 

途中のわずかな上り坂がありがたく感じるほど。

 

面河まで降りると、小雨になり、また晴れ間が出たりで、目まぐるしく天候が変わっていく。

 

天候がどうとなろうと、最後の黒森峠に臨むのみ。

 

再び、500-600mくらいは登らなければならない。

 

膝はなんとか持ちそうだが、路面から立ち上る湯気や暑さのためか、脚が動かなくなってきた。

 

情けないが、休みを入れながら、少しずつ進んでいく。

 

峠まであと少し。雲行きで陽が翳ると、待ってましたとばかりにヒグラシの合唱が始まる。

 

最後は斜度が緩くなったおかげで、心身に余裕ができ、今年初めての啼き声に、耳をすませながら、峠にたどり着くことができた。