松山の城山公園には、飲食の店が美術館の横にしかないので、キッチンカーが何台か日替わりで出店している。
私はここのメキシコ料理屋さんのタコライスがお気に入りで、いつもハラペーニョのトッピングをお願いしている。
ご飯は結構多めで、ミンチのお肉もこんなに盛っていただいて大丈夫かと心配になる程。
特にレタスがシャキシャキで、これが結構いい仕事をしている。
その日は午前中に自転車練を済ませ、お昼を何とかしようと、相方と城山公園に出かけた。
相方は美術館横のレストランでハンバーガーのテイクアウト。
私はいつものタコライスを頂こうとキッチンカーに近づく。
2組ほどが立って待っている。
これならそんなに待たなくても大丈夫、と思ってその後ろに並ぶ。
女主人が注文の品を作ってビニール袋にいれる頃になると、どこからともなく受け取りに来られる客がいる。
それも1組ではなく、次から次へと。
そうか、並んでいる2組はまだ注文前の客だったか。
事態が把握できた頃、ハンバーガーを手にした相方が近寄ってきて、これは時間がかかるからハンバーガーにしろと迫ってくる。
いやいや、せっかくここまで待ったし、私の胃袋はすでにタコライスのための準備が整ってしまっているので、先に食べ始めてくれるように伝える。
待つことしばし、することもないので女主人の手捌きに目をやる。
材料の大部分はあらかじめ下ごしらえして、タッパーや小袋に分けてあり、そこから取り出して料理しているようだ。
狭いキッチンカー内で、また客を待たせての調理だから、効率と手際が求められているに違いない。
レタスもタッパーから取り出している様子が見えたが、そのタッパーは丁度カラになってしまったようだった。
ここまでは何も思わず眺めていたのだが。
やおら丸々一個のレタスが取り出され、なんと包丁で刻み始めたのである。
一個刻み終えるまでに数分もかかってはいないと思うが、待っている身でもあったので、とても長く感じた。
刻まれたレタスは何もなかったようにタッパーに収められた。
私は度肝を抜かれた。
レタスは前もって刻んできていないのである。
あらかじめの準備より、現場でレタスを刻むことを選んでいたのである。
このことが言うまでもなく、あのシャキシャキ感をもたらしていたのだ。
女主人の「当たり前」を垣間見た気がした。(☆当たり前については以前のエントリーをご参照ください。)
暫しのち、刻みたてのレタス入りタコライスが完成した。
私は恭しく、まるで賞状をいただくかのように、両手で受け取り、相方の元へ飛んで行った。