じいちゃんトライアスリートの旅

還暦過ぎのトライアスリートです

オレンヂのトランクス

その曲は私が社会人になった頃、たまたま手にしたアルバム「時のないホテル」(松任谷由実,1980/6)A面の4番目にあった。

 

「雨に消えたジョガー」作詞作曲 松任谷由美

あたたかい 朝もやが 雨になる
眠った 通りを響かせ
うつむいた ランナーが あらわれる


おととしの 夏休み あの人の
タイムを おどけて測った
彼は今 駆けている シーツの闇を・・

病気の 名前は
ミエロジエーナス・ロイケミア【Myelogenous Leukemia】
図書館の いすは ひどく冷たく 

できるなら 肩をよせ 走りたい
雨に消えて

彼だけ 知らない なぜみんなが 気づかうか
もうすぐ ひとりで ボートに乗るの

去ってゆく オレンヂの トランクス 
やっぱり ちがう人なのね
過ぎた日の まぼろしを 見ていたの

できるなら 肩をよせ 走りたい 雨に消えて

 

病で先立った一人のランナーに心を寄せる曲である。

 

当時は今ほどマラソンというものが一般庶民に浸透していなくて、街中で走る人を見かけることなど、まず無かった時代である。

私はといえば、まったく運動から遠ざかっていた頃で、走ることなど無縁の世界であった。

そこへ突然「ジョガー」という言葉を浴びせられ、その言葉への新鮮な驚きと、ある種のあこがれを感じたことを記憶している。

「ま、しかし俺には関係ないな」程度に思い、数多ある中の一曲になりかけていた。

ところが歌詞の中に一つだけ心に引っかかる言葉があった。

「去ってゆくオレンヂのトランクス」

「去ってゆくオレンヂのトランクス」

「去ってゆくオレンヂのトランクス」

 「去ってゆくオレンヂのトランクス」

オレンヂ……

なんでオレンヂ…

どうしてオレンヂ

松任谷由実は、トランクスの色を述べる必要があったのか…、あれば、どうしてオレンヂなのか、

このオレンヂに戸惑い、ユーミン魔力に引きずり込まれていった。

霧の中を走り去る、すらりと伸びた脚、その付け根には鍛え抜かれた緊張感のある臀筋群、それを包みこむ少し緩めのトランクス、これはどうあってもオレンヂでないと絵にならないのだ。

当時の私の脳裏に、その躍動するトランクスが浮かび、刻み込まれた。

そしてうっすらと、走るってかっこいいんやと思った。

何十年か経て、走り出してしまった私は、あのあこがれのジョガーに少しは近づけたのだろうか。